サテライト細胞
|
|
「トレーニング後、筋肉はどのようにして大きくなっていくのですか。」
スポーツやレジスタンスエクササイズ後に筋肉は損傷しています。その損傷した筋肉を修復するためにタンパク質の合成が高まり筋肉が強く大きくなっていきます。筋肉のタンパク質合成はサテライト細胞の活性化によって促されています(Chesley et al. 1992; White & Esser, 1989)。
サテライト細胞とは筋の細胞膜間に存在する未分化の幹細胞のことです。通常、サテライト細胞は休止状態ですが、筋肉が激しく使われ損傷した時に活性化され、細胞周期に入り、分裂、分化し、既存の筋細胞に融合して筋肉を肥大させます。あるいはサテライト細胞自身によって筋管細胞を形成しているとも考えられています。
この休止中のサテライト細胞は肝細胞増殖因子(HGF: hepatocyte growth factor)や一酸化窒素(NO: nitric oxide)の媒介によって活性化されています。サテライト細胞に引っ張られるなどのメカニカルなストレスが加わるとNOの活性を促し、NOはHGFの分泌を媒介し、HGFがサテライト細胞の活性化を促しています(Tatsumi et al. 2002)。この一連のサテライト細胞のストレッチ→NO→HGF→サテライト細胞の活性化反応はpHの値に依存して起きています。
HGFはパラクリン増殖因子としての役割に加えてサテライト細胞において自己分泌作用を持ち、筋肉の成長と再生過程でサテライト細胞を調節している重要な成長因子です(Sheehan et al. 2000)。筋細胞を損傷させたマウスにHGFを任意に注入した結果、損傷初期の段階では休止中のサテライト細胞を活性化させましたが、その後HGFの注入は逆に筋線維の再生を抑制してしまいました(Miller et al. 2000)。したがって、HGFは筋再生でサテライト細胞の活性を促すと同時に分化を抑制しバランスよく筋細胞が再生されうように調整していると考えられます。このようにサテライト細胞が活性され増殖した後に分化されなかった筋芽細胞(myoblast)は再び休止中のサテライト細胞に戻り、いわゆるサテライト細胞の更新がされています。
また、サテライト細胞はIGF-I、IGF-II、FGF、TGF-β、IL-6、LIFなどの分泌によって成長が制御されています。FGFはサテライト細胞の増殖を促すものの、分化は抑制しています。TGF-βのメンバーであるミオスタチン(GDF-8)はサテライト細胞の活性を抑制して、サテライト細胞を休止状態に保っています(McCroskery et al. 2003)。したがって、ミオスタチンの発現が抑制されるとサテライト細胞の活性が高まり、筋肉の肥大が促されます。
このようなサテライト細胞の活性化によって筋肉を肥大させる戦略の一つに核支配領域の制限があげられます。
動物における細胞のサイズは核の情報の生産能力と拡散の速度によって決まっており、その直径はおよそ10ミクロンです。したがって、動物の大きさは細胞のサイズによって決定されているのではなく、細胞の数に依存しているといえます。事実、大きい動物ほど細胞の数が多くなります。
一方、筋細胞は一見大きい動物の方が大きいといえそうです。絶対的な大きさ(長さ)は実際にそうなのですが、筋細胞は他の細胞と違い多くの核から成る多核細胞です。肥大している細胞ほど多くの核を持っています。発生における筋細胞の出現過程を探ってみると、多核の筋細胞の筋管は幹細胞(stem cell)が中胚葉系幹細胞を経て筋芽細胞(myoblast)になり、それらが互いに融合して形成されています。したがって、大きな動物の筋の細胞もそれ自体が大きいというよりは多くの筋芽細胞を持っているからともいえます。
筋のサイズを大きくするには筋芽細胞を増やし、新たな筋細胞を作るか、既存する筋細胞に融合して核数の増えた筋細胞へと肥大させていく必要があります。このような生理現象を成長した筋肉で可能にしているのがサテライト細胞なのです。サテライト細胞による筋芽細胞の形成、筋線維への融合が活発に行われ、筋肉が大きく強くなることが出来るという訳です。
山内潤一郎
|