高山順応
|
|
「山の上の高いところで生活していると身体にどのような適応が起きてくるのですか?」
海抜の高いところは低いところに比べて酸素濃度、気圧、気温など様々な環境が平地と異なっています。
しかし、高所における細かな特殊環境とそれに伴うヒトの生体反応についてはまだよくわかっていません。
2004年に中国が世界一高いエベレストの標高5300mの地点に気象観測所を設置するというニュースがありました。これによりエベレスト、あるいは標高5000m以上のより細かな気象状況が少しずつ明らかになっていくと思われます。また、このことは天候の変化によって起こるエベレスト登山の事故の減少が期待できます。さらに、酸素や窒素などの空気濃度、気温、湿度、気圧などの様々な気象データの解析により、これらの気象条件に適応するための準備やトレーニングが事前に特異的に出来るようになるかもしれません。
高所環境下でヒトが長い間滞在するとそこで生き続けるために様々な機能が順応していきます。
ヒマラヤの高山に住むシェルパの身体機能は低地に住む人と異なっています。例えば、筋線維の横断面積は小さく、その結果毛細血管の密度は高くなっており、活動筋への酸素運搬の伝達性と拡散性が効率よくなっています(Kayser et al. 1991)。高所順応をした登山者にも同様の適応が起きています。
一方、ヒマラヤのシェルパの最大酸素摂取量は白人登山者に比べ低く、有酸素能力は高くありませんでした。しかし、ミトコンドリアの密度はシェルパと登山者共に低地に住む人に比べて低くなっていました。ミトコンドリアは筋細胞内でグルコースと脂肪酸を酸化してエネルギーに変換する「発電所」として働いています。本来ならばミトコンドリアが多い方が有酸素能力を高めるのに有効なはずなのです。しかし、登山者は酸素摂取量を増やすことによって有酸素能力を上げ、一方、シェルパはどうやらミトコンドリアの質を高めるか、何かの他の適応で有酸素能力を上げていると考えられます。
このように高所での身体適応は長年高所を住地とする山岳民族と一時的な移住地とする元々低地で育った登山者とでは異なるようです。おそらく前者は先祖からの長年の生活によって、なんらかの遺伝的な変異が起きているのかもしれません。一方、登山者らは高所で生存するために瞬時に対応可能な生理学的な適応が選んでいるようです。
山内潤一郎
|