筋力と筋肉の大きさ
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「よくボディビルダーの筋肉はみせかけで強くないと言われていますが、どうなんでしょうか。筋肉が大きければ大きいほど力が強いのではないのですか。」
筋肉が大きい人ほど筋力があります。ボディビルダーはものすごく力があります。実際に彼らは何十キロ、何百キロという重さのバーベルやダンベルを使ってトレーニングをしています。
筋肉が大きくなることによって筋力が増加します。筋力の増加と筋肥大には相関があります。
トレーニングによる筋肥大は主に速筋線維が占めています。ストレングストレーニングやスプリントトレーニング後には遅筋線維と速筋線維の両方の横断面積が大きくなりますが、速筋線維の肥大率の方が遅筋線維に比べて大きいです。特に高強度レジスタンストレーニングでは速筋線維の肥大を促します。
トレーニングによるメカニカルストレスの増加に適応し筋肉を大きくするためには、タンパク質の合成を増さなければなりません。タンパク質の合成が増加することによって、筋原線維が多く作られ、大きな力が収縮装置より発揮されるようになります。ストレングストレーニングによって損傷した筋線維は修復しなければなりません。この筋修復の過程で多くのタンパク質が生産され、筋線維が大きくなり、大きな力を発揮できるようになります。特に筋線維内の収縮タンパク質の増加が力発揮を大きくします。
高強度のレジスタンストレーニングの4時間後から24時間後にタンパク質の合成は増加していることが報告されています(Chesley et al. 1992)。ストレングストレーニング後のタンパク質合成にかかる時間やタンパク質が生産される量はトレーニング強度・量・頻度、トレーニングした筋肉の部位、エクササイズタイプ、トレーニングした人のトレーニング経験値などさまざまな要因によって異なってきます。
トレーニング後に筋線維が適応するために必要とされるタンパク質の量はトレーニング中にどの程度の筋線維を刺激したかと関係しています。したがって、全身をトレーニングした場合、それだけ多くの筋肉を再生しなければならないため多くの時間と多くのタンパク質が筋肉のタンパク質合成に必要となります。
しかし、場合によっては筋肉が大きくなったからといって即時に筋力の増加につながらないこともあります。近年筋肉を大きさ調節している様々な遺伝子がわかってきました。その中で筋肥大を促す因子、c-skiの過剰発現によって筋肥大した筋はうまく力を発揮できなくなっています。
c-ski遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックマウスは骨格筋が異常に肥大することが報告されています。特に速筋線維(type IIb)の肥大が著しいです。しかし、単位面積あたりの筋力が筋肥大に伴って増加していません。
c-skiは筋損傷後の筋再生の過程で筋原細胞(myogenic cell)の増殖に関わっていると考えられています。c-skiの過剰発現による筋肥大は特にタンパク質の分解を抑えています(Costelli et al. 2003)。c-skiは筋肉の大きさを制御しているミオスタチンのシグナル経路に関わっていると考えられています。c-skiを過剰発現させることによってミオスタチンのシグナル経路にあるSmadタンパク質を不活性にさせることでミオスタチンの活性を抑制し、筋肥大を促していると考えられています。
しかし、c-skiを過剰発現させたトランスジェニックマウスの筋線維は大きくなっているものの、収縮装置である筋原線維は細いままなのです(Bruusgaard et al. 2005)。さらに、このマウスはZ線上に損傷が起きていて、正常なZ線を形成できないため収縮装置で発生した力がお互いにうまく伝えられなくなっています。つまり、収縮タンパク質の減少とZ線の損傷が力発揮能力を低下させていると考えられます。また核支配領域(nuclear domain)が通常のマウスに比べて大きくなっています。つまり、c-skiを過剰発現させたトランスジェニックマウスでは核が筋線維の増加に伴って増えていなく、このことが収縮タンパク質の合成量に限界をもたらしている可能性があります。
c-skiを過剰発現させたトランスジェニックマウスは収縮タンパク質以外のタンパク質の増加によって筋肥大を起こしていると考えられます。その結果、筋肥大に伴う筋力の増加が起きていません。
これはかなり特別な例です。
一般的には筋力と筋肉の大きさは正の相関があります。ただし、このボディビルで鍛えて大きくなった筋肉の筋力が直接スポーツで必要とされる筋力やパワーには結びつきません。実際のスポーツで活かせる筋肉にするためにはその競技に特異的な動作での神経系のトレーニングを取り入れ、爆発力とスキルを磨かなければなりません。このことからボディビルで鍛えた筋肉は見せかけのアクセサリーだといわれているのかもしれません。
山内潤一郎
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