クローンと科学の進歩
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「科学が進歩して、これまで不可能だといわれていたクローン技術も可能になってきました。クローンによって自分の分身が作れる日が来るのでしょうか。また、このような技術は医療の世界でどのように役立つと考えられているのでしょうか。」
だんだんサイエンス小説や漫画の中での話が現実的になってきている感じがします。しかし、メディアが大げさに取り上げすぎて誇張されすぎている面もあります。世間が騒ぐほどすぐに実用化される段階ではありません。
確かに、クローンや遺伝子治療の可能性や実用性は高くなってきています。動物レベルでは多くの成功例があります。しかし、人への応用となるとまだまだ様々な技術的な問題、さらに倫理的な問題をクリアにしていく必要があります。科学が進歩することによって新たな問題が生じているのも事実です。
1997年に英国ロスリン研究所の研究グループが体細胞クローン羊ドリー誕生の成功を発表し、世間からクローンの存在が大きな注目を浴びるようになりました。
その後、米国ハワイ大学に留学中の日本人を中心とした研究グループがクローンマウス誕生の成功を発表して、クローン研究に拍車がかかってきました。
クローン人間の現実的な可能性はどうなのでしょうか。
もう一度人生をゼロからいろいろなことに挑戦したい。あるいは自分に分身がいて変わりに学校にいってもらったり仕事をしてもらいたい。このようなことを考えている人が世の中には結構いると思います。これらのことが果たしてクローン人間の実用化で成し得ることができるのでしょうか。
答えはイエスでノーです。
クローン人間や動物を誕生させるためには、まず未受精卵から核を取り除き、その中に体細胞の核を移植してクローン胚を作成します。本来、動物の胚は卵子と精子の生殖細胞が受精して出来上がります。そのため、両方の遺伝子を持っている個体が生まれます。しかし、クローン胚は生殖細胞の核を引き継がず、体細胞の核から遺伝情報をそのまま引き継いでいます。
したがって、クローン胚によって生まれた個体は理論的には体細胞の持ち主と遺伝的に同じになります。その同じ能力でやりきれなかったスポーツや音楽などを小さいときから(再)挑戦して、出来なかった可能性を試すことは出来るかもしれません。
体細胞クローンによって生まれた人や動物は違う時代に生まれた一卵性双生児の兄弟と同じと考えることが出来ます。しかし、一卵性双生児だからといって片方がもう1人の分身になるかといえばそんなことはありません。一卵性双生児の兄弟2人が1人の人生を歩んでいるかと言えば、それは全く違いますよね。
クローン人間でも当然成長した環境、時代によって異なった経験をして違う人格が形成されていきます。それはもう1人の自分ではありません。新たな次元を生き、異なった人格を持っている人が生きています。これまでのいろいろな人生の過程が唯一の個人を作っていて、同じ人間を複製することは出来ず、顧みることは出来ないのです。
技術的にも現段階では非常に難しく、動物の実験での成功率は1%程度でしかありません。また、うまく誕生してもその後の健康的に生きることが出来るかどうか不明な点が多いです。
しかし、クローン技術が生まれたことによって、様々な可能性がもたらされたのも事実です。例えば、絶滅危機の動物の保護、絶滅した動物の再生、良質の食肉の量産化などがそうです。
また、医療面でもクローン胚を培養することによって、万能細胞と呼ばれる胚性幹(ES)細胞を作ることが出来ます。ES細胞は身体の様々な組織に分化する前の細胞であるため、この細胞を使って本人と同じ遺伝子を持った組織や臓器に分化させて作ることが出来る可能性があります。これらの臓器を使うことによってより多くの臓器移植が可能になり、なおかつ本人と同じ遺伝子を持った臓器であるため拒絶反応が避けられる可能性もあると考えられます。
クローン人間の可能性に人間が持つ本能的な野望は、親が子に自分が成し得なかった夢を子を託すのと似ているのかもしれません。ただ、遺伝子が自分と全く同じということを除けば。
しかし、このような考えが度を過ぎると我侭でしかなくなります。
その我侭のために、世の中が過剰に反応して、必要以上に倫理や道徳が議論されています。
その結果、可能性や探究による進歩が滞ってしまっています。
社会の常識という枠組みの中で科学は進歩して停滞しているのかもしれません。
山内潤一郎
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